サポーターの「問い」にデータで耳を傾ける:問い合わせ記録分析で関係性と活動を深めるヒント
非営利団体にとって、サポーターからの問い合わせは日常的な業務の一部です。多くの場合、これらの問い合わせには一つひとつ丁寧に対応されていることと思います。しかし、その記録を単なる「対応履歴」として終わらせてしまうのは、少しもったいないかもしれません。
実は、サポーターからの問い合わせデータには、コミュニティの活性化や活動の改善に繋がる多くのヒントが隠されています。「サポーターが何に興味を持ち、何に疑問を感じ、どのようなことで困っているのか」を知るための、貴重な「声」のデータ源と言えるでしょう。
この記事では、サポーターからの問い合わせ記録をどのようにデータとして捉え、分析し、そして具体的な関係性深化や活動改善に繋げるかについて、実践的なステップをご紹介します。手元にあるデータと一般的なツール(例えばExcelなど)でできることから始めてみましょう。
問い合わせデータから見えてくるサポーターの「声」
サポーターからの問い合わせは、様々な形で寄せられます。例えば、
- 寄付の方法や領収書に関する質問
- イベントやプログラムの内容、申し込み方法に関する質問
- Webサイトの情報やメールの内容に関する疑問
- 活動全般に関する質問や意見
- ボランティアやプロボノとしての関わり方に関する問い合わせ
- 登録情報の変更や退会に関する手続きの確認
これらの個別の「問い」の背景には、サポーターの「知りたい」「確認したい」「困っている」といった具体的なニーズが存在します。これらの「声」をデータとして集計・分析することで、以下のようなことが見えてきます。
- 多くのサポーターが共通して疑問に感じていること:頻繁に寄せられる問い合わせ内容は、情報提供が不足している、あるいは情報が分かりにくい箇所を示唆します。
- 特定の時期にサポーターが関心を持っていること:キャンペーン期間中やイベント告知後などに特定の問い合わせが増える場合、それはその活動への関心の高まりや、一方で分かりにくかった点を示します。
- 特定の属性のサポーターが抱える課題:年齢層や寄付年数、関わりの形態(寄付者、ボランティアなど)によって問い合わせの傾向が異なる場合、それぞれのセグメントに合わせた情報提供やサポートが必要であることが分かります。
- サポーターが活動に対して期待していること:新しいプログラムや関わり方に関する問い合わせは、サポーターの潜在的な貢献意欲や関心の方向性を示唆します。
これらのインサイトは、一見バラバラに見える問い合わせ記録を、コミュニティ全体の関係性強化や活動改善のための羅針盤に変える可能性を秘めています。
問い合わせデータ分析の具体的なステップ
では、実際に手元にある問い合わせデータを分析するにはどうすれば良いでしょうか。ここでは、高度なツールを使わずとも実践できる基本的なステップをご紹介します。
ステップ1:データの収集と整理
まずは、現在どのように問い合わせを記録しているかを確認しましょう。CRMシステム、Excelシート、メールフォルダ、手書きのメモなど、様々な形で記録されているかもしれません。可能な範囲で、以下の情報を収集・整理します。
- 問い合わせ日時:いつ問い合わせがあったか
- サポーター情報:誰からの問い合わせか(氏名、会員番号など、可能な範囲で特定できる情報)
- 問い合わせチャネル:電話、メール、問い合わせフォーム、SNSなど
- 問い合わせ内容の要約:具体的にどのような内容か簡潔にまとめる
- 対応内容の要約:どのように対応したか簡潔にまとめる
- 問い合わせ内容の分類(重要):後述のステップ2で実施
これらの情報を一覧できる形式(例えばExcelのリスト形式)にまとめます。過去一定期間(例えば過去半年や1年)のデータを集めると、傾向が見やすくなります。
ステップ2:問い合わせ内容の分類
これが分析において非常に重要なステップです。集めた問い合わせ内容を、あらかじめ定めたカテゴリに分類します。例えば、以下のようなカテゴリ設定が考えられます。
- 「寄付関連」(例:方法、領収書、金額変更)
- 「イベント・プログラム関連」(例:内容、申し込み、参加方法)
- 「会員情報関連」(例:住所変更、メールアドレス変更、退会)
- 「活動内容関連」(例:事業詳細、活動報告、団体のビジョン)
- 「ボランティア・参加関連」(例:関わり方、募集情報)
- 「Webサイト・情報発信関連」(例:情報が見つからない、メルマガ配信停止)
- 「その他」
最初はカテゴリ分けに悩むかもしれませんが、まずは大まかに分類し、分析を進める中で必要に応じてカテゴリを見直すと良いでしょう。Excelであれば、新しい列にカテゴリ名を入力していく形で分類できます。
ステップ3:簡単な集計と可視化
カテゴリ分けができたら、次は簡単な集計を行います。
- 問い合わせ件数の推移:月ごとの問い合わせ件数を集計し、グラフ化すると、特定の時期に問い合わせが増えているかどうかが分かります。
- カテゴリ別の件数:最も多い問い合わせカテゴリは何でしょうか? 上位のカテゴリを円グラフなどで表示すると、サポーターの関心や課題の全体像が見えてきます。
- チャネル別の件数:どのチャネルからの問い合わせが多いかを知ることで、情報提供やサポート体制の改善に役立てられます。
これらの基本的な集計だけでも、サポーターが何に困っているかの大まかな傾向を掴むことができます。
ステップ4:サポーター属性や行動データとの組み合わせ(可能であれば)
より深く分析するために、問い合わせをしたサポーターの他のデータ(例えば、寄付履歴、継続年数、過去のイベント参加履歴、居住地域など)と組み合わせてみましょう。
- 特定のカテゴリの問い合わせは、どの属性のサポーターから多いか? 例:「Webサイトの情報が見つからない」という問い合わせは、デジタルツールに不慣れな可能性のある高齢層から多いかもしれません。
- 特定の問い合わせをしたサポーターは、その後どのような行動をとっているか? 例:「ボランティアに関心がある」と問い合わせたサポーターのうち、実際にボランティア登録に至ったのは何割か? 問い合わせたけれど行動に繋がらなかったサポーターには、何らかのハードルがあったのかもしれません。
このステップは少し複雑になるかもしれませんが、手元にあるサポーターリストと問い合わせデータを照合することで、Excelでも基本的な分析は可能です。
分析結果からアクションへ繋げる
問い合わせデータの分析によって得られたインサイトは、具体的なアクションに繋げることが重要です。以下にいくつか例を挙げます。
- FAQやWebサイト情報の改善:頻繁に寄せられる質問とその回答をFAQページとして整理したり、分かりにくかったWebサイトの箇所を修正・加筆したりします。これにより、サポーター自身が疑問を解決できるようになり、問い合わせ対応の負荷軽減にも繋がります。
- 情報発信のテーマ選定:サポーターの関心が高いカテゴリや、多くの人が疑問に感じている点を、メールマガジンやSNS投稿、ブログ記事のテーマとして取り上げます。「よくあるご質問とその回答」といった内容を丁寧に発信するのも効果的です。
- 個別コミュニケーションのヒント:特定の問い合わせをしたサポーターに対し、その内容に関連する個別フォローや情報提供を行います。例えば、イベントへの参加方法を問い合わせたけれど申し込んでいない方へ、改めてイベントの魅力や参加メリットを伝えるメールを送るなどが考えられます。
- 事業内容や活動内容へのフィードバック:問い合わせ内容に、団体の活動やサービスに対する改善要望や期待が含まれていることがあります。これらの声を関係部署や担当者にフィードバックすることで、活動内容の改善に繋げられます。
- マニュアル整備やスタッフ研修への活用:対応が難しかった問い合わせ内容や、複数のスタッフが同じ質問を受けている場合は、対応マニュアルを整備したり、スタッフ間で情報共有や研修を行ったりすることで、対応品質の向上を図れます。
実践のポイント
問い合わせデータ分析を始めるにあたって、完璧を目指す必要はありません。まずは、以下の点を意識して、できることから始めてみましょう。
- 小さな一歩から:まずは過去1ヶ月分の問い合わせデータだけを整理してみる、最も件数の多いチャネルのデータだけを分析してみるなど、負担にならない範囲で始めます。
- カテゴリ分けを丁寧に:問い合わせ内容の分類は、その後の分析の質を左右します。迷った場合は、複数の担当者で話し合って共通認識を持つことも有効です。
- 定期的な分析を心がける:一度分析して終わりではなく、定期的に(例えば四半期ごとや半期ごと)分析を行うことで、サポーターの関心や課題の変化を継続的に追跡できます。
- チームで共有する:分析結果をチーム内で共有し、サポーター理解を深めることは、組織全体の対応力向上に繋がります。
まとめ
サポーターからの問い合わせ記録は、単なる対応履歴ではなく、サポーターの関心やニーズ、そして団体に対する期待が詰まった貴重なデータです。これらの「声」にデータ分析を通じて耳を傾けることで、サポーターとの関係性をより深く理解し、効果的なコミュニケーションや活動改善に繋げることができます。
この記事でご紹介した分析ステップや活用方法は、特別なツールや高度なスキルがなくても実践できる基本的なアプローチです。まずは手元にある問い合わせデータに目を向け、小さな一歩から分析を始めてみてはいかがでしょうか。サポーターの「問い」の中に、コミュニティ活性化のための大切なヒントがきっと見つかるはずです。