サポーターの「熱量」をデータで測る:エンゲージメント分析で関係性を深める実践ステップ
はじめに
「サポーターの皆さんの熱意をもっと引き出したい」「どうすればもっと積極的に活動に関わってもらえるだろうか」。日々の活動の中で、このように感じている非営利団体の担当者の方は多いのではないでしょうか。
多くの団体では、寄付履歴やイベント参加といったサポーターの行動データが蓄積されています。しかし、「これらのデータをどのように活用すれば、サポーター一人ひとりの熱量や、団体との関係性の深さを具体的に把握できるのだろうか?」と悩まれることもあるかもしれません。
本記事では、皆さんが手元にお持ちのデータを活用して、サポーターの「エンゲージメント(熱量)」を測定し、その分析結果を具体的なコミュニティ活性化のアクションへ繋げるための実践的なステップをご紹介します。
NPOにおける「エンゲージメント」とは何か?
非営利団体におけるサポーターのエンゲージメントとは、単に金銭的な支援(寄付)だけでなく、団体の活動に対する関心、参加、貢献意欲、そして積極的に関わろうとする姿勢の総体を指します。
具体的には、以下のような多様な行動が含まれます。
- 金銭的な貢献: 寄付、会費の支払い
- 時間的な貢献: ボランティア活動への参加、イベント運営協力
- 情報への関心: メールマガジンの開封・クリック、Webサイトの特定のページの閲覧、SNSでの「いいね」やシェア
- 直接的な関わり: イベントや勉強会への参加、交流会での発言
- 声上げ・拡散: 知人への団体の紹介、署名活動への協力、アンケートへの回答
- アイデア提供: 活動に関する意見や提案
これらの行動は、サポーターが団体に対して持つ「熱量」や「関わりの深さ」を示す貴重なサインです。
なぜエンゲージメントをデータで測る必要があるのか?
サポーターのエンゲージメントをデータに基づいて把握することには、いくつかの重要なメリットがあります。
- 関係性の深さを客観的に評価できる: 漠然とした印象だけでなく、具体的な行動データに基づいてサポーターごとの関わりの深さを把握できます。
- 効果的なコミュニケーションが可能になる: エンゲージメントレベルに応じた、よりパーソナルで響くメッセージを送ることができます。例えば、エンゲージメントの高いサポーターには特別な情報を、低いサポーターには関心を引くきっかけを提供するといった戦略が立てられます。
- リソースを最適化できる: 限られたリソース(時間、予算、人員)を、より効果的なサポーターへのアプローチに集中させることができます。
- コミュニティ全体の活性化に繋がる: エンゲージメントの高いサポーターを特定し、その熱量をさらに引き出すことで、コミュニティ全体の雰囲気を高め、新たな貢献を引き出すきっかけを作ることができます。
どのようなデータを活用できるか?
皆さんの団体ですでに収集している可能性のあるデータで、エンゲージメント分析に活用できるものは多岐にわたります。
- 支援者管理データベース: 寄付履歴(回数、金額、頻度)、会員種別、入会日
- イベント管理システム: イベント参加履歴(参加回数、参加したイベントの種類)
- ボランティア管理システム: ボランティア活動履歴(参加回数、活動時間、参加した活動の種類)
- メール配信システム: メール開封率、クリック率
- Webサイト分析ツール(Google Analyticsなど): 訪問頻度、特定のページ(活動報告、寄付ページなど)の閲覧状況、サイト滞在時間
- SNS: 投稿への反応(いいね、コメント、シェア)
- アンケート結果: 回答履歴、回答内容(特に自由記述)
これらのデータは、多くの場合ExcelやCSVファイルとして書き出すことができるはずです。まずは、どのようなデータが手元にあるかを確認してみましょう。
エンゲージメント指標の設計と測定(実践ステップ1)
手元にあるデータを活用してエンゲージメントを測定するための一つの具体的なアプローチとして、「エンゲージメントスコア」を計算する方法があります。
1. エンゲージメントを構成する「行動要素」を定義する
まず、皆さんの団体において、どのようなサポーターの行動を「エンゲージメントが高い」と見なしたいかを具体的にリストアップします。これは団体の活動内容やミッションによって異なります。
- 例:年1回以上の寄付、年2回以上のイベント参加、ボランティア活動への参加、メールの継続的な開封・クリック、Webサイトの活動報告ページを月1回以上閲覧、アンケートへの回答、SNSでのシェア
2. 各行動要素に「スコア」を割り当てる
次に、リストアップした行動要素それぞれに、重要度に応じた「スコア」を割り当てます。スコアの付け方に絶対的な正解はありませんが、最初は単純な加点方式で始めるのがおすすめです。
- 例:
- 年間寄付額1万円以上: +50ポイント
- 年間寄付額1万円未満: +30ポイント
- イベント1回参加: +20ポイント
- ボランティア1回参加: +40ポイント
- 直近3ヶ月のメール平均開封率50%以上: +10ポイント
- 直近3ヶ月のメール平均クリック率10%以上: +15ポイント
- Webサイト活動報告ページを月1回以上閲覧(直近3ヶ月平均): +10ポイント
- 直近1年以内のアンケート回答: +20ポイント
- SNSでのシェア(特定期間内): +5ポイント
これらのスコアは、団体の活動やサポーターとの関係性の中で、特に重視したい行動により高い点数を付けるように調整してください。最初は仮置きで構いません。
3. サポーターごとのエンゲージメントスコアを計算する
定義した行動要素とスコアを基に、サポーター一人ひとりについて、該当する行動のスコアを合計して「エンゲージメントスコア」を算出します。
多くのサポーター管理システムや、Excelの関数(SUMIFSなど)を活用することで、この合計スコアを計算できます。
- 例えば、あるサポーターが「年間寄付額1万円未満」「イベント2回参加」「直近3ヶ月のメール平均開封率60%」「直近1年以内のアンケート回答」に該当する場合、そのサポーターのエンゲージメントスコアは 30 + (20×2) + 10 + 20 = 100 となります。
このスコアが高いほど、団体とのエンゲージメントが高いサポーターであると見なすことができます。
エンゲージメントスコアの分析(実践ステップ2)
サポーターごとのエンゲージメントスコアが算出できたら、次にそのスコアを分析します。
1. スコアの全体像を把握する
- スコアの分布を確認する: サポーター全体のスコアがどのような範囲に分布しているか(最小値、最大値、平均値、中央値など)を確認します。多くの人がどのくらいのスコア帯にいるのか、極端に高い人や低い人はどのくらいいるのかを把握します。Excelのヒストグラム機能などが役立ちます。
- エンゲージメントレベルでセグメント化する: スコアに基づいてサポーターをいくつかのグループに分けます。例えば、「高エンゲージメント層(上位X%)」「中エンゲージメント層」「低エンゲージメント層(下位Y%)」のように3段階程度に分けると、後のアクションに繋がりやすくなります。スコアの分布を見ながら、区切り値を決めましょう。
2. エンゲージメントの高いサポーターの特徴を見つける
高エンゲージメント層に分類されたサポーターに共通する特徴をデータから探します。
- 属性: 年齢層、居住地域、過去の支援開始時期など、どのような属性の人がエンゲージメントが高い傾向にあるか?
- 行動履歴: 最初にどのような形で団体と関わったか?(例:イベント参加、Webサイトからの資料請求など) 特定の種類のイベントや活動に繰り返し参加しているか? 特定の種類の情報(例:メルマガの特定連載、ブログ記事)によく反応しているか? 寄付以外の貢献(ボランティアなど)もしているか?
これらの特徴を掴むことで、「どのような人が、どのようなきっかけで、どのように関わるとエンゲージメントが高まるのか」というインサイトを得ることができます。
分析結果をアクションへ繋げる(実践ステップ3)
分析で得られたインサイトや、エンゲージメントレベルでセグメント化されたサポーターに対して、具体的なアクションを計画・実行します。
1. エンゲージメントレベルに応じたコミュニケーション戦略
- 高エンゲージメント層:
- アプローチ: 更なる貢献機会の提供(例:イベントでの発表依頼、特別なプロジェクトへの参加打診、アンバサダー募集)、団体の意思決定プロセスの一部への招待、より深い情報共有(例:限定レポートの提供)、特別な感謝のメッセージ。
- 目的: 団体の重要なパートナーとしての意識を高め、継続的な深い関与を促す。
- 中エンゲージメント層:
- アプローチ: 興味を持ちそうな活動やイベントへの個別の案内、エンゲージメントを高めるための具体的なヒント(例:「こんな参加方法もあります」「短い時間でもできるボランティア」など)、団体の活動の成果を分かりやすく伝えるメッセージ。
- 目的: 更なる関与のきっかけを提供し、エンゲージメントレベルを引き上げる。
- 低エンゲージメント層:
- アプローチ: 関心の確認を目的としたシンプルなメッセージ(例:「最近ご無沙汰していますが、お元気ですか?」)、負担の少ない関わり方の提案(例:メルマガ購読のみ、簡単なアンケート協力)、改めて団体の活動概要を伝えるリマインダー。
- 目的: 関係性の維持、再活性化の可能性を探る。離脱防止。
2. 高エンゲージメント層から学ぶインサイトの活用
高エンゲージメント層に共通する特徴や行動履歴から得られたインサイトを、コミュニティ全体の活性化に活かします。
- 新規サポーター獲得・育成への応用: 高エンゲージメント層が最初にどのような形で関わったか(初回接触チャネル)を参考に、新規獲得施策を見直す。エンゲージメントが高まりやすい「最初のステップ」を設計し、新しいサポーターをそこに誘導する。
- コンテンツ・イベント企画の改善: 高エンゲージメント層が反応しやすいコンテンツ(メール、Webサイト記事)や、参加しやすいイベントの種類を参考に、今後の情報発信やイベント企画に反映させる。
- 貢献の選択肢を増やす: 高エンゲージメント層が多様な形で貢献している傾向があれば、他のサポーターにも様々な関わり方の選択肢があることを積極的に伝える。
分析とアクションの継続
エンゲージメント分析は一度行ったら終わりではありません。サポーターとの関係性は常に変化するため、定期的に(例えば四半期ごとや半期ごと)エンゲージメントスコアを算出し直し、分析とアクションを見直すことが重要です。
分析のサイクルを回すことで、施策の効果測定も行えます。「このコミュニケーション施策を実施した後、該当セグメントの平均エンゲージメントスコアはどう変化したか?」といった視点で評価することで、より効果的なサポーター活性化策を見つけていくことができます。
まとめ
サポーターの「熱量」や「エンゲージメント」は、コミュニティ活性化の鍵となる要素です。手元にある寄付履歴、イベント参加履歴、メールの反応データといった様々なデータを組み合わせることで、サポーター一人ひとりの関わりの深さを具体的に把握することができます。
本記事でご紹介した「エンゲージメントスコア」の計算と分析は、そのための実践的なアプローチの一つです。まずは、貴団体の活動における「エンゲージメントの高い行動」を定義し、簡単なスコアリングから始めてみてはいかがでしょうか。
データに基づいたエンゲージメントの理解は、サポーターとの関係性をより一層深め、コミュニティ全体の持続的な発展に繋がるはずです。ぜひ、小さな一歩からでも実践してみてください。