データで読み解くサポーターの「次なる一歩」:行動遷移分析で関係性を深めるヒント
「手元には色々なサポーターの行動データはあるけれど、次にどうすればもっと深く関わってもらえるのか、データからは見えてこない...」
非営利団体で支援者コミュニティの活性化に取り組む皆さん、このようなお悩みをお持ちではないでしょうか。Webサイトの閲覧履歴、メールの開封・クリック、イベント参加、寄付、ボランティア活動など、個々の行動記録は蓄積されていても、それらを「関係性の深化」という視点で繋ぎ合わせる方法に迷うことは少なくありません。
この記事では、サポーターの「行動の遷移」に焦点を当てたデータ分析を通じて、次に取るべきコミュニケーションや活動提供のヒントを見つけ出す方法をご紹介します。特別なツールや高度な統計知識がなくても、手元にあるデータと一般的な表計算ソフトで実践できるアプローチです。
なぜ「行動遷移」の分析が重要なのか?
単にサポーターの現在の状況や属性を知るだけでなく、「過去の行動から、次にどのような行動を取る可能性が高いか」を知ることは、関係性をより戦略的に深める上で非常に役立ちます。
- 関係性深化の促進: 特定の行動(例: Webサイトで特定のプロジェクト記事を読む)をした人が、次に深い関わり(例: そのプロジェクトの寄付をする、関連イベントに参加する)に進む傾向がある場合、その行動を促すためのコミュニケーションを強化できます。
- 効果的なコミュニケーション: サポーターの次のステップを予測することで、一人ひとりに合わせた、より響く情報提供や呼びかけが可能になります。例えば、「〇〇イベントに参加した方は、次にこのようなボランティア活動に興味があるかもしれません」といった提案です。
- リソースの最適化: 全てのサポーターに同じアプローチをするのではなく、データに基づいて次のステップに進む可能性が高い層に注力することで、限られた時間や予算をより有効に活用できます。
「行動遷移」分析を始める前の準備
分析を始める前に、以下の点を確認しておきましょう。
- 分析対象とする「行動」の定義: どのような行動と行動の繋がりを見たいかを具体的に決めます。例えば、「メルマガのクリック」から「イベント申込」、「初回寄付」から「継続寄付」、「Webサイト特定ページの閲覧」から「資料請求」などです。団体の活動内容や、サポーターに期待する関わり方のステップアップに合わせて設定しましょう。
- 必要なデータ: 定義した行動に関するデータが必要です。
- 誰が(サポーターを特定できるIDなど)
- いつ(行動が発生した日時)
- どのような行動を(行動の種類)
- (必要に応じて)行動の対象(どのメール、どのイベント、どのページかなど) これらのデータが、サポーターIDをキーとして紐づけられているか確認してください。
- 分析の目的: 何を知りたいのか、分析結果をどのように活用したいのかを明確にしておきましょう。例えば、「イベント参加後に継続的な関わりが増える行動パターンを見つけたい」「特定の情報提供が次のステップ(寄付など)に繋がるか検証したい」といった目的です。
具体的な分析ステップ
ここでは、手元にあるデータ(CSVファイルなど)を一般的な表計算ソフト(Excelなど)で分析する基本的な手順をご紹介します。
ステップ1:分析対象期間と行動ペアの設定
まず、分析したい期間(例: 過去1年間)を決めます。そして、どの行動からどの行動への遷移を見たいか、ペアを設定します(例: 行動A → 行動B)。複数の行動ペアを設定しても良いでしょう。
ステップ2:行動履歴データの整理
サポーターごとの行動履歴を、サポーターID、行動の種類、日時の列を含むリストとして準備します。
| サポーターID | 行動 | 日時 | | :----------- | :------- | :--------- | | 001 | メルマガ開封 | 2023/08/15 | | 002 | Webサイト閲覧 | 2023/08/16 | | 001 | イベント申込 | 2023/08/20 | | 003 | 初回寄付 | 2023/08/22 | | 002 | 資料請求 | 2023/08/25 | | 001 | ボランティア参加 | 2023/09/01 | | 003 | 継続寄付 | 2023/09/30 | | ... | ... | ... |
ステップ3:行動ペアの発生状況を集計する
定義した「行動A → 行動B」というペアが、分析期間中に各サポーターで発生したかどうかを特定します。
例えば、「メルマガ開封 → イベント申込」の遷移を見たい場合: * 各サポーターの行動履歴を時系列で並べます。 * 「メルマガ開封」の記録があるサポーターについて、その開封日時の後に「イベント申込」の記録があるかを確認します。 * 特定の期間内(例: 開封から30日以内など、任意で設定)に発生した場合を「遷移あり」とカウントすると、より関連性の高い遷移を見つけやすくなります。
これを表計算ソフトで行うには、VLOOKUP関数やINDEX+MATCH関数、またはPower Query(Excel)などを活用して、各サポーターの行動Aの記録に対し、後続する行動Bの記録を探す処理が必要になります。少し手間がかかる作業ですが、地道に行うことで遷移のデータが得られます。
最終的に、以下のような集計表を作成します。
| サポーターID | メルマガ開封 | イベント申込(開封後30日以内) | 資料請求(Web閲覧後30日以内) | ... | | :----------- | :----------- | :----------------------------- | :---------------------------- | :-- | | 001 | あり | あり | なし | ... | | 002 | なし | なし | あり | ... | | 003 | なし | なし | なし | ... | | ... | ... | ... | ... | ... |
ステップ4:遷移率や特定のパターンの集計
集計表ができたら、以下の点を分析します。
- 遷移率: 「行動A」をしたサポーターのうち、どのくらいの割合が「行動B」に進んだか?
- 例: メルマガ開封者100人のうち、イベント申込者が10人なら遷移率は10%。
- 特定の行動の組み合わせ: 「行動A」と「行動C」の両方をしたサポーターは、「行動B」に進みやすいか?
- 時間差: 行動Aから行動Bまでの期間は平均してどのくらいか?
これらの集計は、COUNTIF関数やピボットテーブルを使って行うことができます。
分析結果の解釈と具体的なアクションへの繋げ方
分析で得られた数字やパターンをどのように読み解き、アクションに繋げるかが最も重要です。
例1:「メルマガ開封」から「イベント申込」への遷移率が高い場合
- 解釈: 特定のメルマガコンテンツや、メルマガというチャネル自体が、イベント参加への関心を高める効果がある。
- アクション:
- イベント告知を含むメルマガの件名や内容をさらに工夫し、開封率・クリック率を高める施策を行う。
- メルマガの読者を、イベント告知対象の最優先リストとする。
- メルマガ以外でイベントを知ったサポーターにも、関連するメルマガコンテンツを勧める。
例2:「初回寄付」をしたサポーターの中で、「特定の活動報告ページ閲覧」をした人が「継続寄付」に進む割合が高い場合
- 解釈: 初回寄付者は、寄付した資金がどのように使われているかを知ることで、団体の活動への信頼や共感を深め、継続的な応援に繋がりやすい。
- アクション:
- 初回寄付者に対し、寄付後すぐに活動報告ページのURLを含んだお礼メールを送る。
- 初回寄付者向けの限定活動報告コンテンツを作成する。
- 継続寄付のお願いをする前に、具体的な活動成果や進捗に関する情報を積極的に提供する。
例3:「ボランティア活動参加」から「会員登録」への遷移が少ないが、特定のボランティアリーダーとの交流があった参加者は遷移率が高い場合
- 解釈: ボランティア活動自体は関心を集めるが、会員登録への動機付けとしては弱い可能性がある。しかし、特定のリーダーとの人間的な繋がりが会員化を促進している。
- アクション:
- ボランティア活動の最後に、団体への継続的な関わり方(会員制度など)について、より丁寧に説明する時間を設ける。
- ボランティアリーダーに対し、参加者との関係構築や会員制度の説明に関する研修を行う。
- ボランティア参加後、スムーズに会員登録できるような導線を整備する。
これらの例のように、データで示された「行動の繋がりやすさ」を基に、「なぜその繋がりが強い(あるいは弱い)のか」を仮説として考え、それを強化・改善するための具体的なコミュニケーションやプログラムを企画・実行します。
実践のポイント
- スモールスタート: 最初から全ての行動の組み合わせを分析しようとせず、最も関係性が深まる可能性が高いと思われる2~3の行動ペアに絞って始めましょう。
- 仮説を持って臨む: 分析前に「おそらくこの行動とこの行動には関連があるだろう」といった仮説を立てておくと、分析の焦点が定まりやすくなります。
- データは示唆であり全てではない: 分析結果はあくまで過去の行動データに基づいた傾向です。全ての人に当てはまるわけではないこと、そしてサポーターの気持ちや状況は常に変化することを忘れずに、柔軟な視点を持つことが大切です。
- アクションプランまで設計する: 分析して終わりではなく、「この結果が出たら、〇〇というアクションをする」というところまで事前に考えておくと、分析結果をすぐに活動に活かせます。
まとめ
サポーターの行動遷移をデータで追うことは、「次にどのように関わってほしいか」という団体の願いと、「サポーターが次にどのように関わりたいと思っているか」というサポーターの気持ちを繋ぐ架け橋となります。
手元にあるメールの開封履歴、Webサイトの閲覧記録、イベント参加・寄付・ボランティア活動の記録などを活用し、サポーター一人ひとりの「次なる一歩」をデータから読み解いてみてください。そのインサイトが、よりパーソナルで効果的なコミュニケーションと、サポーターコミュニティ全体の活性化に繋がるはずです。
分析はあくまで手段です。最も大切なのは、データから得られたヒントを基に、サポーターとの関係性をより豊かにするための具体的な行動を起こすことです。ぜひ、この記事でご紹介したステップを参考に、皆さんの団体でもサポーターの「行動遷移」分析に取り組んでみてください。