フリーテキストとコメントのデータ分析:サポーターの「声」を活かし、関係性を深める実践ステップ
はじめに:データ化されていない「声」の宝庫にどう向き合うか
非営利団体の活動において、サポーターの皆さまからいただくメッセージやご意見は非常に貴重です。アンケートのフリーテキスト回答、メールやお問い合わせフォームからのご意見、SNSでのコメント、イベントでの直接の感想など、さまざまな形で「声」が寄せられます。これらの声は、サポーターの皆さまのリアルな気持ちや具体的な状況、そして活動への期待や改善点を知るための宝庫です。
しかし、これらの声は多くの場合、テキストデータとして個別に存在しており、定量的なデータのように集計・分析することが難しいと感じている方もいらっしゃるかもしれません。「せっかく多くのご意見をいただいているのに、個別の対応で手一杯で、全体としてどのような傾向があるのか掴みきれていない」「これらの声をどのように活動改善や関係性強化に活かせるのか分からない」といった課題をお持ちではないでしょうか。
この記事では、サポーターの皆さまから寄せられるフリーテキストやコメントといった「声」を、データとして扱い分析し、それを活動改善や関係性強化に繋げるための具体的なステップをご紹介します。特別なツールや高度な知識は必要ありません。手元にあるデータを整理し、少しの工夫を加えることで、サポーターの皆さまの「本音」に触れ、より効果的なコミュニケーションや活動へと繋げていくヒントが見つかるはずです。
なぜフリーテキスト・コメントの分析が重要なのか
定量的なデータ(寄付額、継続年数、イベント参加回数など)は、サポーターの「行動」の傾向を把握するのに役立ちます。一方、フリーテキストやコメントといった「声」は、その行動の「背景」にある想いや理由、具体的な状況や感情を理解するために不可欠です。
例えば、継続寄付を解約された方の定量データからは「〇年で解約した人が多い」という傾向は分かります。しかし、フリーテキストのコメントからは「活動報告が少なくて不安になった」「自分の寄付がどう使われているか分からなかった」といった具体的な理由を知ることができます。これは、今後の離脱防止策や情報提供のあり方を検討する上で、非常に重要なインサイトとなります。
また、ポジティブなコメントにも多くのヒントがあります。「〇〇さんのストーリーに感動して応援しています」「イベントで他のサポーターさんと交流できて楽しかった」といった声は、団体のどのような活動や要素がサポーターのエンゲージメントを高めているのかを示しています。これらの要素を意図的に強化することで、関係性をさらに深めることに繋がります。
このように、フリーテキストやコメントの分析は、定量データだけでは見えにくいサポーターの複雑な内面や具体的な状況を理解し、よりパーソナルで効果的な関係性構築や、活動自体の質の向上に繋げるための鍵となります。
実践ステップ:サポーターの「声」をデータとして読み解く
それでは、具体的にフリーテキストやコメントをどのように分析し、活用していくのか、そのステップを見ていきましょう。
ステップ1:データの収集と整理
まずは、分析したいフリーテキストやコメントを収集します。対象とする期間や、特定の活動(例:直近のイベント、特定のキャンペーン)に関わるコメントなど、目的を明確にすると取り組みやすくなります。
収集元としては、以下のようなものが考えられます。
- アンケートの自由記述欄
- メール、お問い合わせフォームからのご意見・ご要望
- SNS(X, Facebookなど)へのコメントやリプライ
- イベントやワークショップでの感想、意見交換の記録
- 電話や対面での会話の記録(メモなど)
- 活動報告書やニュースレターへの返信
これらのテキストデータを、ExcelやGoogle スプレッドシートなどに集約します。この際、可能であれば「いつ(日時)」「誰が(匿名化するなどプライバシーに配慮しつつ、もし分かればサポーターの属性情報やIDなど)」「どこで(収集元)」「どのような状況で(例:特定の活動について)」といった付随情報も一緒に記録しておくと、後の分析で役立ちます。
例えば、Excelに以下のような列を作成します。
| 日付 | サポーターID(仮) | 収集元(例:アンケート) | 回答項目(例:活動全般へのご意見) | コメント本文 | | :--------- | :---------------- | :-------------------- | :--------------------------- | :----------------------------------------------- | | 2023/10/15 | S001 | アンケート | 活動全般へのご意見 | いつも応援しています。特に〇〇プロジェクトに関心があります。 | | 2023/10/15 | S005 | お問い合わせフォーム | その他 | 活動報告についてもう少し頻繁に知りたいです。 | | 2023/10/16 | S010 | イベント感想 | イベントへのご感想 | 参加して本当に良かった!皆さん熱意があって刺激になりました。 |
ステップ2:コメントの「構造化」とカテゴリ分類
集めたテキストデータを、分析しやすいように「構造化」します。これは、テキストの内容を手作業で読み解き、キーワードを抽出したり、あらかじめ定義したカテゴリに分類したりする作業です。このステップが、非構造化データであるテキストを分析可能な形に変える鍵となります。
まずは、全てのコメントを丁寧に読み込み、内容を把握します。そして、以下のような分類やタグ付けを検討します。
- 感情・トーン: ポジティブ、ネガティブ、中立など
- 内容カテゴリ: 例)活動への感想、要望・改善提案、質問、応援メッセージ、特定のプロジェクトについて、情報発信について、イベントについてなど
- キーワード抽出: コメントの中で繰り返し出てくる単語やフレーズ、特に重要なキーワードをピックアップします。例えば、「報告」「頻度」「参加」「交流」「支援金」「効果」など。
これらの情報を、ステップ1で作成したスプレッドシートに列を追加して記録していきます。
| 日付 | サポーターID(仮) | 収集元 | 回答項目 | コメント本文 | 感情 | 内容カテゴリ | 主なキーワード | | :--------- | :---------------- | :------- | :------------------- | :----------------------------------------------- | :----- | :----------------------- | :------------------- | | 2023/10/15 | S001 | アンケート | 活動全般へのご意見 | いつも応援しています。特に〇〇プロジェクトに関心があります。 | ポジティブ | 活動への感想、特定の活動 | 応援、〇〇プロジェクト | | 2023/10/15 | S005 | お問い合わせ | その他 | 活動報告についてもう少し頻繁に知りたいです。 | ネガティブ | 要望・改善提案、情報発信 | 活動報告、頻度、知りたい | | 2023/10/16 | S010 | イベント感想 | イベントへのご感想 | 参加して本当に良かった!皆さん熱意があって刺激になりました。 | ポジティブ | イベントについて、感想 | 参加、良かった、熱意、刺激 |
この分類は、最初から完璧を目指す必要はありません。まずはざっくりとしたカテゴリから始め、データが増えるにつれて調整していくことも可能です。重要なのは、ご自身の団体がサポーターの声から何を知りたいのか、という目的に合わせて分類の軸を決めることです。
ステップ3:シンプルなデータ分析と解釈
構造化したデータを、Excelなどの集計機能を使って分析します。難しい統計手法は使いません。まずはシンプルな集計から始めましょう。
- カテゴリ別集計: 各内容カテゴリ(要望、感想、質問など)に分類されたコメントがそれぞれ何件あるかを集計します。これにより、サポーターがどのようなテーマに関心を持っているのか、どのような種類の声が多く寄せられているのか、大まかな傾向を掴めます。
- 例:「要望・改善提案」が全体の40%を占めている → サポーターは活動への改善意識が高い、あるいは現状に課題を感じている点が多い可能性がある。
- 感情別集計: ポジティブ、ネガティブなコメントがそれぞれ何件あるか集計します。否定的な意見が多い場合は、早急な対応が必要な課題がある可能性を示唆します。ポジティブな意見が多い場合は、自信を持って継続・強化すべき点が見えてきます。
- キーワード出現頻度: よく出てくるキーワードをリストアップし、その出現回数を数えます。単純な単語だけでなく、「活動報告の頻度」「〇〇イベントの再開催」といったフレーズに注目すると、具体的な関心事が分かりやすいです。
- 属性別・行動別のクロス集計: サポーターの属性情報(継続年数、寄付額の層、参加した活動の種類など)とコメントの内容カテゴリや感情を掛け合わせて集計します。
- 例:新規サポーターからは「活動内容がよく分からない」という質問が多い vs 長期サポーターからは「もっと深く関わりたい」という提案が多い。
- 例:イベント参加者からは「交流の機会を増やしてほしい」という声が多い vs オンラインサポーターからは「オンラインで参加できる企画がほしい」という声が多い。
これらの集計結果を見るだけでなく、必ず具体的なコメント本文に戻って内容を確認することが非常に重要です。数値だけでは分からない、個々のサポーターのリアルな状況や感情のニュアンスを捉えることができます。想定外の意見や、少数の意見の中にも重要なヒントが隠されていることがあります。
ステップ4:分析結果に基づく具体的なアクション
分析結果から得られた示唆を、具体的なアクションに繋げます。分析すること自体が目的ではなく、サポーターとの関係性を深め、活動を改善するための手段であることを忘れないでください。
- 感謝と共感の表明: ポジティブなコメントや、建設的な提案に対しては、可能な範囲で感謝の気持ちを伝える、共感を示すといった丁寧なコミュニケーションを心がけます。多くの声があったテーマについては、活動報告などで「皆さまからこのようなお声をいただきました」と紹介し、意見を参考にしていることを伝えるのも良いでしょう。
- 個別フォロー: 具体的な質問や、早急に対応が必要な課題提起については、個別にお問い合わせなどに対して丁寧な回答や説明を行います。すぐに解決できない場合でも、「ご意見を真摯に受け止め、検討させていただきます」といった返信をすることで、サポーターは「自分の声が届いた」と感じることができます。
- 情報発信の改善: よく寄せられる質問や、多くのサポーターが関心を持っているテーマについて、FAQを作成したり、今後のニュースレターやブログ記事のトピックとして取り上げたりします。活動報告の頻度に関する声が多ければ、報告のスケジュールを見直すといった改善に繋げます。
- 活動・企画への反映: 寄せられた提案や要望を、新しいイベントの企画、既存プログラムの改善、運営方法の見直しなどに活かします。例えば、「〇〇に関する情報をもっと知りたい」という声が多ければ、そのテーマに特化した勉強会を企画する、「他のサポーターと交流したい」という声が多ければ、オンライン交流会やオフラインの懇親会を設ける、などが考えられます。
- 組織内での共有: 分析結果や、サポーターの印象的な「生の声」を、スタッフや関係者間で定期的に共有します。これにより、サポーターへの理解が深まり、組織全体のサポーターとの向き合い方や活動に対する意識向上に繋がります。
実践のヒントと注意点
- 完璧を目指さない: 最初から全てのコメントを網羅的に、高度な分析をする必要はありません。まずは特定の期間や活動に絞って、手元にあるデータから始めてみましょう。
- 定期的な分析を習慣に: 一度きりの分析で終わらせず、四半期ごとや半期ごとなど、定期的にサポーターの「声」を分析する機会を設けることで、変化や傾向を継続的に捉えることができます。
- 否定的な声も貴重な情報として: 批判的な意見も、感情的に受け止めすぎず、活動改善のための貴重なフィードバックとして冷静に分析することが重要です。
- プライバシーへの配慮: コメントを分析・共有する際には、個人が特定できないように十分に配慮してください。
まとめ
サポーターの皆さまから寄せられるフリーテキストやコメントは、活動への深い理解や、より良い関係性を築くための多くのヒントを含んでいます。これらの「声なき声」を、ただ個別のメッセージとして消費するのではなく、データとして丁寧に扱い、構造化し、分析することで、サポーターの皆さまの「本音」に触れることができます。
この記事でご紹介したステップは、特別なツールを使わずに、Excelなどの身近なツールで実践できるものです。ぜひ、手元にあるサポーターの「声」をデータ分析の対象とし、それを活動改善やサポーターとの関係性強化に繋げるための第一歩を踏み出してみてください。サポーターの皆さまの「声」を組織の力に変え、より温かく、より深い関係性を育んでいくための一助となれば幸いです。