イベント参加後の「満足度」と「行動」をデータで追う:関係性を深める分析と具体的なアクション
非営利団体にとって、サポーターとの関係性を深めることは、持続的な活動の基盤となります。イベントは、サポーターが団体や活動に直接触れる重要な機会であり、関係性深化の大きなチャンスです。しかし、「イベントは開催したけれど、その後どう活かせば良いのか分からない」という悩みを持つ担当者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
多くの団体では、イベント参加者リストを作成し、場合によっては簡易的な満足度アンケートを実施しています。これらのデータは、単にイベントの成果を振り返るだけでなく、サポーター一人ひとりの状態を理解し、その後のコミュニケーションや関係性構築に繋げるための貴重な手がかりとなります。
この記事では、イベント参加者の「満足度」と、その後の「行動履歴」を組み合わせたデータ分析に焦点を当て、どのようにサポーターとの関係性を深める具体的なアクションに繋げていくかをご紹介します。手元にあるデータで実践できる分析方法を中心に解説しますので、ぜひ日々の活動に取り入れてみてください。
なぜ「満足度」と「行動」の組み合わせ分析が必要なのか?
イベントへの参加は、サポーターの関心やエンゲージメントを示す一つの行動です。しかし、参加したからといって、必ずしも満足度が高く、その後も積極的に関わってくれるとは限りません。
- 参加しても満足度が低い場合: イベントの内容や形式に課題があった、期待していたものと違ったなど、改善のヒントが隠されています。この状態を放置すると、関係性が途絶えてしまうリスクがあります。
- 参加して満足度が高いのに、その後の行動がない場合: イベントで関心や共感は高まったものの、次にどうすれば良いか分からない、機会がない、といった状況が考えられます。ここには、関係性をさらに深めるための具体的な働きかけの余地があります。
このように、イベント参加という行動だけでなく、参加者がどのように感じたか(満足度)を知ることで、サポーターの状態をより多角的に捉えることができます。さらに、その後のサポーターの行動履歴(寄付、ボランティア参加、他のイベント参加、情報発信への反応など)を追うことで、満足度がその後のエンゲージメントにどう影響しているか、あるいは満足度が高い層はどのような行動をとる傾向があるか、といった具体的なインサイトが得られます。
この組み合わせ分析は、イベントの評価にとどまらず、サポーター一人ひとりに合わせたより効果的なコミュニケーション戦略や、次の関わり方の提案を考える上で、強力な手がかりとなるのです。
具体的な分析手順:手元データで始める組み合わせ分析
では、具体的にどのようにデータ分析を進めるかを見ていきましょう。ここでは、Excelなどの一般的なツールを使って実施できるレベルの分析を想定します。
ステップ1:必要なデータの収集と整理
まずは、分析に必要なデータを集めます。
- イベント参加者リスト: イベント名、開催日時、参加者氏名(またはID)、連絡先情報などが含まれるリストです。
- 満足度アンケート結果: イベント参加者を対象に実施したアンケートの回答データです。満足度を数値で聞いている項目(例:5段階評価)があると分析しやすくなります。「イベントの良かった点・改善点」「知りたい情報」「今後関わりたいこと」などの自由記述欄も重要な情報源です。
- サポーターの活動履歴データ: イベント参加者の、過去から現在に至るまでの団体の活動への関わり方の記録です(例:寄付履歴、ボランティア参加履歴、他のイベント参加履歴、メール開封・クリック履歴、Webサイト閲覧履歴など)。
これらのデータを、サポーター個人を特定できる情報(氏名やサポーターIDなど)をキーとして、一つのデータテーブルにまとめます。例えば、以下のような形式です。
| サポーターID | 氏名 | 参加イベント名 | 開催日 | 満足度(5段階) | その後寄付(有無) | その後ボランティア参加(有無) | その後他のイベント参加(有無) | | :--------- | :------- | :------------- | :------- | :------------ | :--------------- | :--------------------------- | :--------------------------- | | 001 | 山田 太郎 | ○○フェス | 2023/10/15 | 5 | あり | なし | △△セミナー参加 | | 002 | 佐藤 花子 | △△セミナー | 2023/11/20 | 3 | なし | なし | なし | | ... | ... | ... | ... | ... | ... | ... | ... |
ステップ2:データの集計と可視化
データが整理できたら、実際に集計・分析を行います。
- 満足度別の参加者数: 満足度(例:非常に満足、満足、普通、やや不満、不満)ごとに、どれくらいの参加者がいたかをカウントします。円グラフなどで可視化すると全体像が掴みやすいです。
-
満足度別の「その後の行動」発生率: これがこの分析の핵心です。
- 満足度別に、イベント参加後の特定の行動(例:寄付、ボランティア参加、関連情報のクリックなど)をとったサポーターの割合を算出します。
- 例:「非常に満足」と回答したグループのうち、3ヶ月以内に寄付を行った人は何割か?「不満」と回答したグループではどうか?
- これを、他の重要な行動項目(ボランティア参加、別イベント参加など)についても同様に行います。
- 棒グラフなどで比較すると、満足度と行動の関連性が見えやすくなります。
-
特定の行動をとったサポーターの満足度: 逆に、イベント参加後に追加の寄付をしてくれたサポーターは、イベントに対する満足度が全体と比べて高かったのか、低かったのか、といった切り口でも集計できます。
Excelのピボットテーブル機能を使うと、これらの集計を比較的容易に行うことができます。
ステップ3:自由記述データの活用
満足度アンケートの自由記述欄は、サポーターの生の声が詰まった宝庫です。
- ポジティブな意見: 「イベントの〇〇がとても良かった」「活動の△△に共感した」などの意見は、イベントの成功要因やサポーターの共感ポイントを知る上で重要です。今後のイベント企画や情報発信の参考にします。
- ネガティブな意見や改善提案: 「〇〇が分かりにくかった」「△△な情報が欲しかった」などの意見は、イベントや活動の改善点を示唆しています。特に満足度が低い層からの意見は注意深く分析します。
- 関心や希望: 「今後〇〇な活動に参加したい」「△△についてもっと知りたい」といった記述は、そのサポーターが次に求めている関わり方を示すヒントになります。
自由記述をすべて読むのは大変ですが、特定のキーワード(例:ボランティア、寄付、〇〇プロジェクト、もっと知りたい、難しい)で検索したり、満足度と紐付けて「満足度は低いけれど、どんな不満だったか」を個別に確認したりすることで、より深い理解が得られます。
分析結果から関係性強化のアクションへ
分析結果から見えてきたインサイトを、具体的なアクションに繋げましょう。いくつかの例をご紹介します。
- 「満足度は高いが、その後の行動が見られない」層へのアプローチ:
- 分析から、この層はイベントで団体の魅力や活動意義を十分に感じている可能性が高いと推測できます。しかし、次にどう繋がれば良いか、具体的なステップが分からないのかもしれません。
- アクション例:イベント参加のお礼メールに加えて、彼らが関心を示しそうな次のイベント、ボランティア募集、あるいは特定のプロジェクトに関する情報や参加方法を、具体的な行動喚起(CTA: Call to Action)を明確にして伝える。イベント終了後、少し間を置いて(例:1週間後、1ヶ月後など)、段階的に異なる種類の関わり方を提案するコミュニケーションを設計する。
- 「満足度は普通・低い」層へのアプローチ:
- この層は、イベント体験に何らかの課題を感じた可能性があります。率直な意見を聞き、改善に繋げることが最優先です。
- アクション例:満足度アンケートの自由記述や、もし可能であれば個別にヒアリングを依頼し、不満や改善点を深掘りする。得られたフィードバックをイベント企画や運営に反映させ、改善した点をニュースレターなどで伝える。すぐに深い関わりを求めるのではなく、まずは団体の活動の重要性や最新情報を丁寧に伝え続け、緩やかな関係性を維持することを目指す。
- 「満足度が高く、かつ積極的に活動している」層へのアプローチ:
- 団体の活動を深く理解し、共感し、貢献意欲も高い可能性のある層です。
- アクション例:感謝のメッセージを伝え、活動報告や成果をいち早く共有する。より責任ある関わり方(例:イベント運営の協力、特定の専門性を活かしたボランティア、サポーター向け企画への意見提供など)を提案する。彼らの声やアイデアを他のサポーターに共有してもらう機会を作ることも検討します。
- 特定の行動に繋がった満足度の傾向:
- 例えば、「イベント参加後、すぐに寄付をしてくれた人は、イベントの特定の内容に特に満足していた」という傾向が見られたとします。
- アクション例:その特定の内容(例:受益者の声、具体的な活動成果の紹介など)が、寄付行動に繋がりやすい「共感ポイント」である可能性が高いです。今後のイベントや情報発信において、この内容を重点的に取り上げることを検討します。
データ活用の注意点
- 完璧を目指しすぎない: 最初からすべてのデータを完璧に集めて分析しようとすると、ハードルが高くなります。まずは、手元にあるイベントとアンケート、そして直近の活動履歴だけでも分析を始めてみましょう。
- 分析は目的ではない: 分析はあくまでサポーター理解を深め、関係性強化のための「手段」です。分析結果からどんな「アクション」を起こすか、そしてそのアクションがどのような「成果」に繋がったかを検証することまで含めて、データ活用と考えましょう。
- プライバシーへの配慮: サポーターのデータを扱う際は、個人情報保護方針に基づき、適切かつ慎重に取り扱うことが不可欠です。
まとめ
イベント参加者の満足度と、その後の行動履歴を組み合わせたデータ分析は、サポーター一人ひとりの状態やニーズをより深く理解し、関係性を深化させるための効果的なアプローチです。
「イベントに参加してくれた」という事実だけでなく、「イベントでどのように感じ、その後どう行動したか」という視点でデータを見ることで、それぞれのサポーターに合わせた、よりパーソナルで響くコミュニケーションや関わり方の提案が可能になります。
手元にあるイベント参加者リストとアンケート結果、そしてサポーターの活動履歴を組み合わせることから、データ分析の第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。この分析を通じて得られるインサイトが、サポーターコミュニティ全体の活性化に繋がることを願っています。