データで見るサンキューの効果:感謝を成果に変える分析とコミュニケーション術
はじめに:感謝を伝えることの重要性と、その効果の測り方
非営利活動において、サポーターの皆様への感謝の気持ちを伝えることは、活動の継続において欠かせない大切なステップです。サンキューレター、お礼のメール、電話での声かけなど、様々な形で感謝をお伝えしていることと思います。
しかし、こうした感謝のコミュニケーションが、実際にサポーターの方々の「応援したい」という気持ちや、その後の行動にどのようにつながっているのかを、具体的に把握するのは難しいと感じる方もいらっしゃるかもしれません。
手元にあるサポーターデータは、単に活動報告を送ったり、寄付募集を行ったりするだけでなく、こうした日々のコミュニケーションの効果を測り、より関係性を深めるためのヒントを与えてくれます。この記事では、サンキューレターや個別コミュニケーションに焦点を当て、その効果をデータでどう測り、次のアクションにどう繋げるかを、実践的な視点からご紹介します。
なぜサンキューの効果測定が必要なのでしょうか?
感謝を伝えることは、それ自体が重要です。では、なぜあえてその「効果」をデータで測る必要があるのでしょうか。
- 資源の最適化: 限られた時間や費用の中で、どのサポーターに、どのような方法で感謝を伝えるのが最も効果的かを知ることで、貴重な資源を効率的に活用できます。
- 関係性構築の精度向上: 「響く」感謝の伝え方を知ることで、サポーター一人ひとりの心に寄り添った、より深い関係性を築くことができます。
- 活動への継続的な応援促進: 感謝の気持ちが適切に伝わることで、サポーターは「応援してよかった」「これからも応援したい」と感じやすくなり、継続的な支援に繋がります。
- コミュニケーション戦略の改善: 効果測定を通じて得られた知見は、今後のサンキュー施策だけでなく、日々のサポーターコミュニケーション全体の改善に役立ちます。
「なんとなく効果があるだろう」から一歩進んで、データで効果を可視化することで、より意図的・戦略的にサポーターとの関係性を育むことが可能になります。
効果測定のためのデータ準備:手元にある情報を整理する
サンキューの効果を測るために、まずは現在手元にある情報や、これから収集できる情報を整理しましょう。特別なツールは必要ありません。スプレッドシート(Excelなど)で管理できるデータで十分です。
主に必要となるデータは以下の通りです。
- サンキューコミュニケーション実施記録:
- 誰に(サポーターを特定できるIDや情報)
- いつ(送付/連絡した日付)
- どのような方法で(手書きレター、印刷レター、メール、電話、SNSメッセージなど)
- どのような内容で(可能であれば、内容のタイプや特徴を記録)
- サポーターの行動データ:
- その後の寄付(寄付日、金額、プロジェクトなど)
- イベント参加(参加日、イベント名など)
- メールやニュースレターの開封・クリック履歴(メール配信システムから取得可能)
- ウェブサイトの特定のページ(例:活動報告、寄付ページ)へのアクセス履歴(Google Analyticsなどから取得可能)
- ボランティア参加やプロボノ提供などの関わり
これらのデータを、サポーターごとに紐づけて整理します。例えば、以下のような項目を持つ一覧表を作成することをイメージしてください。
| サポーターID | 氏名 | サンキュー送付日 | 送付方法 | 送付内容カテゴリ | その後の寄付日1 | その後の寄付額1 | その後のイベント参加日1 | その後のメールクリック日 | ... | | :----------- | :------- | :--------------- | :------- | :------------- | :------------ | :------------ | :------------------ | :--------------- | :-- | | 001 | 山田 太郎 | 2023/10/05 | 手書きレター | 初回寄付ありがとう | 2024/01/20 | 5,000円 | 2024/02/15 | - | ... | | 002 | 佐藤 花子 | 2023/10/05 | 印刷レター | 年末寄付ありがとう | - | - | - | 2023/11/10 | ... | | 003 | 田中 一郎 | - | - | - | 2023/12/01 | 3,000円 | - | - | ... |
※表中のサポーターID:003のように、サンキューを送付しなかったグループのデータもあると比較分析に役立ちます(後述)。
データ整理のポイント: * 期間を区切る: 特定のキャンペーン期間や、サンキュー送付から一定期間(例:6ヶ月)など、分析対象とする期間を決めます。 * データの粒度を揃える: サポーターごと、またはコミュニケーション実施ごとにデータを集計します。 * 継続的な記録: 効果測定は一度きりではなく、継続的に行うことで、施策の改善とその効果の検証を繰り返すことができます。日々のコミュニケーション記録を習慣化しましょう。
具体的な分析方法:Excelでできる効果の「見える化」
データが整理できたら、いよいよ分析です。ここでは、Excelなどでできる基本的な分析方法をご紹介します。
1. サンキュー送付グループ vs 非送付グループの比較
最もシンプルで分かりやすい分析方法です。 * 対象: 特定の期間内にサンキューコミュニケーションを実施したサポーターのグループと、そうでないサポーターのグループ(属性や寄付額などが近い方が比較しやすいですが、難しければ無作為でも良いでしょう)。 * 分析する指標: * その後の一定期間内での追加寄付率(追加寄付をしたサポーター数 / グループ全体のサポーター数) * その後の一定期間内での一人あたりの平均追加寄付額 * その後のイベント参加率 * その後のメール開封率やクリック率 * 手順(例:追加寄付率を比較する場合): 1. データリストに「サンキュー送付フラグ」(例: 1=送付, 0=非送付)列を追加します。 2. 「その後の追加寄付フラグ」(例: 1=期間内に追加寄付あり, 0=なし)列を追加します。 3. ピボットテーブル機能を使って、「サンキュー送付フラグ」を行に、「その後の追加寄付フラグ」を列に設定し、値にサポーターIDの数を表示します。 4. 行の合計数(グループ全体のサポーター数)と、追加寄付があったサポーター数を確認し、率を計算します。 * または、COUNTIFS関数を使って「サンキュー送付フラグが1かつ追加寄付フラグが1の数」と「サンキュー送付フラグが1の数」をそれぞれカウントし、割り算で率を算出することもできます。
2. コミュニケーション方法・内容別の効果比較
異なる種類のサンキューコミュニケーションを試している場合に有効です。 * 対象: 複数のコミュニケーション方法や内容でサンキューを送付したサポーターグループ。 * 分析する指標: 上記と同様の指標(追加寄付率、イベント参加率など)。 * 手順(例:送付方法別の追加寄付率を比較する場合): 1. データリストに「送付方法」(例: 手書き, 印刷, メール)列があることを確認します。 2. 上記と同様にピボットテーブルやCOUNTIFS関数を使い、「送付方法」ごとに追加寄付率を算出します。
3. サポーター属性別の効果分析
どのようなサポーターにサンキューを送るのが最も効果的かを知るための分析です。 * 対象: サンキューを送付したサポーター全体。 * 分析する指標: 特定の属性(例: 初回寄付者か継続寄付者か、過去の寄付回数、寄付総額、参加イベント数など)を持つサポーターグループと、そうでないグループでの効果指標(追加寄付率など)を比較します。 * 手順(例:継続寄付者か初回寄付者かで効果が違うかを見る場合): 1. データリストに「サポーター区分」(例: 継続寄付者, 初回寄付者)列を追加します。 2. ピボットテーブルやCOUNTIFS関数を使い、「サポーター区分」ごとに追加寄付率などを算出します。
これらの分析を通じて、「手書きのレターは継続寄付に繋がりやすい」「初回寄付から〇ヶ月以内にサンキューを送ると次の寄付に繋がりやすい」「高額寄付者には電話で感謝を伝えるとイベント参加率が上がる」といった傾向が見えてくる可能性があります。
分析結果の解釈とアクションへの展開
分析によって何らかの傾向が見られたら、次にそれをどう解釈し、具体的なアクションに繋げるかを考えます。
分析結果の解釈のポイント:
- 数字の差は意味があるか?: 例えば、手書きレター送付グループの追加寄付率が5%、印刷レター送付グループが3%だったとして、この2%の差は偶然なのか、それとも本当に効果の違いなのか?厳密な統計分析は難しくても、サンプル数が十分か、他の要因(同時期の他のコミュニケーションなど)の影響はなかったかなどを考慮して、慎重に判断します。
- なぜそのような結果になったのか?: 数字の裏にあるサポーターの気持ちや行動を推測します。「手書きが響いたのは、手間暇かけた気持ちが伝わったからだろう」「特定の属性の人に効果があったのは、普段から熱量が高いからかもしれない」など、仮説を立ててみましょう。
- 完璧なデータはなくても良い: データが完全でなくても、得られた傾向から「もしかしたらこうかもしれない」という仮説を持つことが重要です。
具体的なアクションへの展開例:
分析結果から得られた示唆を基に、今後のサンキュー施策やサポーターコミュニケーション全体を改善する具体的なアクションを計画します。
- 送付対象の絞り込み/拡大: 特定の属性のサポーターに効果が高かった場合、その層へのサンキューコミュニケーションを強化する。
- コミュニケーション方法の変更/追加: 効果が高かった方法(例: 電話、手書きレター)を他の層にも試してみる。効果が低かった方法は見直す。
- メッセージ内容の調整: 効果が高かった内容のタイプ(例: 活動の具体的な成果に触れる、個人の応援がどう役立っているか伝える)を参考に、他のメッセージも改善する。
- 送付タイミングの見直し: 特定の行動(例: 初回寄付、イベント参加)からどのくらいの期間内にサンキューを送るのが最も効果的か、分析結果から判断し、タイミングを調整する。
- 他のコミュニケーションとの連携: サンキューを送ったサポーターに、その後の活動報告メールや、関連イベントの案内などを連携して送る。
- 新たなテストの実施: 分析で立てた仮説(例: 「〇〇な内容のサンキューは△△なサポーターに響くはず」)を検証するために、A/Bテスト(異なるパターンのサンキューを送って効果を比較)などを企画・実施する。
重要なのは、分析結果を一回の施策改善で終わらせず、「分析 → アクション → 効果測定 → 再分析」というPDCAサイクルを回すことです。
おわりに:小さな一歩から、感謝を成果に繋げる
サンキューレターや個別コミュニケーションの効果測定は、一見難しそうに思えるかもしれません。しかし、手元にあるデータとExcelのような身近なツールでも、十分に実践できます。
完璧な分析を目指すのではなく、「このサンキューは、本当にサポーターに届いているかな?」「どんなお礼の仕方が一番喜ばれるんだろう?」といった日々の疑問に対し、データを通じて答えを探していく感覚で取り組んでみてください。
感謝の気持ちを効果的に伝えることは、サポーターの皆様との信頼関係を深め、活動への継続的な応援を育むための強力な手段です。データ分析を味方につけて、あなたの団体の感謝のコミュニケーションを、さらなる成果へと繋げていきましょう。小さな一歩から始めてみることを応援しています。