データ分析で発見!「離脱予備軍」と関係性を維持する実践的ステップ
なぜ、サポーターの「離脱予備軍」をデータで発見する必要があるのか
非営利団体にとって、サポーターの方々は活動を支えてくださる最も大切な存在です。新たなサポーターとの出会いを増やすことも重要ですが、それ以上に、今すでに繋がってくださっているサポーターの方々との関係性を維持し、さらに深めていくことが、団体の持続的な運営には欠かせません。
しかし、私たちは日々の業務に追われ、個々のサポーターの方々の状況をきめ細やかに把握することは容易ではありません。「気がついたら、長い間連絡が取れていない方が増えている」「イベントに参加されなくなった方がいる」といった状況に、後から気づくことも少なくないのではないでしょうか。
ここで役立つのが、データ分析の視点です。団体が保有する様々なデータには、サポーターの方々の現在の「関心」や「エンゲージメントレベル」、そしてもしかしたら「離脱の兆候」といった情報が隠されています。これらのデータを読み解くことで、実際に離脱してしまう前に「離脱予備軍」となりうるサポーターを発見し、関係性を維持するための proactive な(先手を打った)アプローチが可能になります。
本稿では、手元にあるデータを使ってサポーターの継続・離脱傾向を読み解くための分析ステップと、そこから導き出される具体的なアクションについてご紹介します。
サポーターの継続・離脱傾向を示す「データ」とは?
「離脱予備軍」の兆候を探るために活用できるデータは、特別なツールがなくても、皆様の団体で日常的に蓄積されているデータの中にあります。例えば、以下のようなデータソースが考えられます。
- 寄付履歴データ:
- 最終寄付日
- 過去1年間の寄付回数や寄付額
- 寄付の頻度(定期寄付かどうか、単発寄付の場合はどのくらいの期間で寄付しているか)
- 過去からの寄付回数や寄付額の推移
- イベント参加履歴データ:
- 最終参加イベントの開催日
- 過去1年間のイベント参加回数
- 参加頻度の変化
- 参加したイベントの種類(特定のテーマに関心があるかなど)
- コミュニケーション履歴データ:
- メールマガジンの開封率やクリック率(特定の期間での低下など)
- 郵送物(DM)への反応(寄付やイベント参加に繋がったかなど)
- 電話や対面でのコンタクト履歴(最終接触日、内容など)
- ボランティア活動履歴データ:
- 最終活動日
- 活動頻度
これらのデータは、団体の会員管理システムや、寄付管理データベース、イベント参加者リスト、あるいはExcelファイルなどで管理されていることが多いでしょう。これらのデータ項目単体や、複数組み合わせることで、サポーターの方々の「活動量」や「関与度」の変化を捉える手がかりとなります。
「離脱予備軍」の兆候を掴むデータ分析の具体的なステップ
では、これらのデータを使って具体的にどのように分析を進めれば良いのでしょうか。ここでは、特別な知識やツールを使わずに、Excelなどで実践できる簡単なステップをご紹介します。
ステップ1:分析の目的と対象者を定める
まずは、何を知りたいのか、誰について知りたいのかを明確にします。 * 「過去1年以上寄付がないサポーターの中で、連絡が取れていない人はどのくらいいるか?」 * 「直近1年間でイベント参加回数が減った人はどのような傾向があるか?」 * 「メールマガジンの反応が著しく低下している人たちは誰か?」
このように具体的な問いを設定することで、必要なデータと分析方法が絞られます。対象者は、過去に何らかの形で団体と関わりのあったサポーター全体や、特定のセグメント(例:過去に高額寄付をした人、特定のプログラムの参加者など)に絞ることもできます。
ステップ2:必要なデータを集め、整理する
ステップ1で定めた目的に沿って、関連するデータを集めます。例えば、「過去1年以上寄付がないサポーター」を知りたい場合は、寄付履歴データから最終寄付日をリストアップします。
Excelなどにデータをまとめる際は、サポーターを識別できるユニークなID(会員番号など)をキーとして、関連するデータ項目(最終寄付日、最終イベント参加日、メール開封率など)を横に並べると分析しやすくなります。
ステップ3:具体的な分析を行う(「兆候」の定義)
集めたデータを元に、「離脱予備軍」となりうる「兆候」をデータで定義し、該当するサポーターを抽出します。兆候の定義は、団体の活動内容やサポーターとの関係性によって異なりますが、一般的な例を挙げます。
- 最終活動日から一定期間が経過: 例として、「最終寄付日から1年以上経過」「最終イベント参加日から1年半以上経過」など、具体的な期間を設定します。期間は、団体の活動頻度やサポーターとのコミュニケーション頻度に合わせて調整してください。
- 活動頻度の低下: 例として、「過去2年間は毎年寄付があったが、直近1年間は寄付がない」「以前は年間複数回イベントに参加していたが、直近1年間は参加がない」といった変化を捉えます。
- コミュニケーションへの無反応: 例として、「過去半年間のメールマガジンの開封率が平均より著しく低い(例: 5%未満)」「郵送物が宛先不明で戻ってくる」など、コミュニケーションが届いていない、あるいは関心を示していない兆候を見つけます。
Excelであれば、これらの条件を使ってデータをフィルタリングしたり、新しい計算列(例: 今日の年月日 - 最終寄付日 = 経過日数
)を追加して分析を進めることができます。
ステップ4:分析結果の解釈とリスト化
分析によって抽出されたサポーターリストは、「離脱予備軍」の可能性が高い層と考えられます。リストアップしたサポーターについて、他のデータ(過去の寄付額、参加イベントの種類、登録しているメールマガジンなど)も合わせて確認することで、なぜそのサポーターが「離脱予備軍」となったのか、背景を推測するヒントが得られる場合があります。
例: * 最終寄付日は古いが高額寄付者だった → 何か活動にがっかりさせてしまったか、特別な配慮が必要な方か? * イベント参加は減ったがメールはよく読んでいる → イベント以外での関心があるか、別の関与方法を探しているか?
リストアップした「離脱予備軍」の方々を、その「兆候」の種類や過去の関係性に応じてグループ分けすると、次のアクションを検討しやすくなります。
分析結果から具体的な「アクション」へ繋げる
データ分析の目的は、分析すること自体ではなく、そこから得られた示唆を元に具体的な行動を起こし、より良い関係性を築くことにあります。特定された「離脱予備軍」の方々に対して、どのようなアクションが考えられるでしょうか。
重要なのは、一方的な連絡ではなく、サポーターの方々の状況や関心に配慮したコミュニケーションを設計することです。
アクション例:
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個別または小グループでの特別なコンタクト:
- 最終活動日から時間が経過した方々へ、最近の活動報告と共に「お元気ですか?」「何か変化はありましたか?」といった近況を伺う丁寧なメッセージを送付する。
- 活動頻度が低下した方々へ、過去に参加されたイベントや関心のあったテーマに関連する最新情報や、別の関与方法(オンラインでの活動参加、アンケート協力など)を提案する。
- 過去に深く関わってくださった方には、可能であれば電話や対面でのご挨拶・近況伺いを検討する。
- ポイント: 一斉送信ではなく、可能な範囲でパーソナライズされたメッセージを心がけます。「〇〇様が以前ご参加くださったイベントの続編が決定しました」「〇〇様が関心をお持ちだったテーマについて、新しいプログラムが始まりました」など、具体的な接点に触れると相手に響きやすくなります。
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コミュニケーションチャネルの見直し:
- メールへの反応が低い層には、郵送のニュースレターや、FacebookなどのSNSを通じた情報提供が有効かもしれません。サポーターが普段どのような情報収集をしているか、推測や簡単なアンケートで探ることも有効です。
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改めて団体の「今」を伝える:
- しばらく接点がなかった方々に向けて、団体の活動がどのように進んでいるか、サポーターの応援がどのようなインパクトを生み出しているかを、分かりやすく、感動的に伝えるコンテンツ(ニュースレター、動画、Webページなど)を作成し、届けます。
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関心を改めて確認する機会の提供:
- 「現在の活動で最も関心があるテーマは何ですか?」「今後、どのような情報を受け取りたいですか?」といった内容の簡単なアンケートや、オンラインでの意見交換会などを企画し、サポーターの「今」の関心事を知る機会を作ります。これは、今後のコミュニケーション内容を調整する上でも非常に役立ちます。
これらのアクションは、単に関係性を「維持」するためだけでなく、サポーターの方々に「団体は自分たちのことを気にかけてくれている」「応援している価値がある」と感じていただき、関係性を「強化」することにも繋がります。
分析を継続するための仕組みづくり
サポーターの継続・離脱傾向の分析は、一度行えば終わりではありません。サポーターの方々の状況は常に変化しますし、団体の活動も常に進化しています。定期的に(例えば四半期に一度、あるいは半期に一度)データ分析を行うことで、新たな「離脱予備軍」を早期に発見し、継続的な関係性維持・強化のアクションに繋げることができます。
分析に使用するデータは、日々の業務の中で漏れなく正確に入力・管理されるように、チーム内で情報共有とルール作りを行うことも重要です。既存の会員管理システムなどに、最終活動日やコミュニケーション履歴を記録する仕組みがあるか確認し、最大限活用しましょう。もしデータ管理に課題がある場合は、Excelなどで簡易的なリストを作成することから始めるのも良いでしょう。
まとめ
サポーターの方々との関係性を維持し、離脱を防ぐことは、非営利団体の安定的な運営基盤を作る上で極めて重要です。そのためには、経験や勘だけでなく、データに基づいたアプローチが有効です。
本稿でご紹介したように、手元にある寄付履歴、イベント参加履歴、コミュニケーション履歴などのデータを活用することで、「離脱予備軍」となりうるサポーターの兆候をデータで読み解くことができます。
分析を通じて特定された方々に対して、個別最適化された、丁寧なコミュニケーションや関係性構築のアクションを実行することで、再び団体との絆を深めていただくきっかけを生み出すことが可能です。
ぜひ、皆様の団体でも、眠っているデータを活用し、サポーターの方々とのより強固な関係性を築く一歩を踏み出してみてください。