キャンペーン参加後のサポーターの「隠れた変化」をデータで追う:エンゲージメント深化を見抜く分析と活用法
キャンペーン参加後のサポーターの「隠れた変化」をデータで追う:エンゲージメント深化を見抜く分析と活用法
非営利団体では、啓発活動や特定の募金プロジェクトなど、様々なキャンペーンを実施されています。こうしたキャンペーンは、新しいサポーターとの接点になったり、既存サポーターの関心を高めたりする重要な機会です。
キャンペーンの成果というと、どうしても参加者数や目標金額の達成率といった短期的な数字に目が行きがちかもしれません。もちろん、それらは大切な指標です。しかし、キャンペーンがもたらす本当の価値は、その場限りの成果だけでなく、参加してくれたサポーターのその後の行動や、団体との関係性にどのような変化をもたらしたか、という点にあるのではないでしょうか。
「あのキャンペーンに参加してくれた方が、その後別の活動にも関わってくれるようになった」「このイベントがきっかけで、毎月の寄付を始めてくれたようだ」といった、一見捉えにくい「隠れた変化」の中にこそ、サポーターのエンゲージメントが深まる兆候や、今後の関係性強化につながる大切なヒントが隠されています。
本記事では、キャンペーン参加後に着目すべきサポーターの行動変化をデータで捉え、その分析からエンゲージメント深化の兆候を見抜き、関係性強化に繋げるための具体的なステップをご紹介します。手元にあるデータを使って、ぜひ一緒に読み解いていきましょう。
なぜ、キャンペーン後のサポーターの行動変化をデータで追う必要があるのか
キャンペーンは、サポーターにとって団体への関心や理解を深めるきっかけとなります。特定のテーマに関するキャンペーンであれば、そのテーマへの関心が一層高まるでしょう。また、活動の裏側を知る機会や、他のサポーターとの交流の機会となるキャンペーンもあります。
こうした経験は、サポーターの「応援したい気持ち」を育み、次に取る行動に影響を与える可能性があります。例えば、以下のような変化です。
- 他の活動への関心: 特定のテーマのキャンペーン参加後、関連する別のプロジェクトやイベントに興味を持つ。
- 関与の深化: 一度きりの参加から、ボランティア登録や定期的な寄付へと進む。
- 団体理解の向上: ウェブサイトの他のページを閲覧したり、ニュースレターをより頻繁に読むようになる。
- 推奨行動: 友人や知人に団体の活動を紹介したり、SNSで発信するようになる。
これらの変化は、キャンペーン単体の成果レポートには直接現れないことが多いです。しかし、これらの「隠れた変化」をデータで捉え、分析することで、サポーターがキャンペーンを通じてどのようにエンゲージメントを深めているのか、あるいは深められていないのかを知ることができます。この理解は、個別のサポーターへの最適なコミュニケーションや、今後のキャンペーン企画の改善に不可欠です。
分析で「隠れた変化」を見つけるための準備
キャンペーン後のサポーターの行動変化を分析するために、まずは以下の準備を進めましょう。
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追いたい「変化」の定義: キャンペーンの目的を踏まえ、「キャンペーン参加者が、参加後にどんな行動を取ったら、関係性が深まったと見なせるか」を具体的に定義します。
- 例:「〇〇キャンペーン参加者が、その後3ヶ月以内に、関連する△△活動に申し込んだ」
- 例:「△△啓発オンラインイベント参加者が、その後1ヶ月以内に、団体の定期寄付ページを閲覧した(特定のページのアクセスを追う)」
- 例:「□□募金キャンペーンに参加した人が、翌年の同じ時期にも寄付をしてくれた」 このように、キャンペーンの種類や団体の活動内容に合わせて、追跡したい具体的な行動(指標)を設定します。
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必要なデータの特定と収集: 定義した「変化」を追うために、どんなデータが必要かを確認し、収集します。
- キャンペーン参加者リスト(氏名、サポーターID、参加方法など)
- サポーターの活動履歴データ(イベント参加、ボランティア活動、物品購入など)
- 寄付履歴データ
- ウェブサイトのアクセスログ(特定のページ閲覧、申し込み完了など)
- メールマガジンやSNSでのリアクション履歴(開封、クリック、シェアなど) これらのデータが、どこに(例えばExcelファイル、データベース、特定の管理ツール、Google Analyticsなど)あるかを確認します。
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データの統合と整理: 複数の場所にデータがある場合は、分析しやすいように統合します。Excel等を使用する場合、キャンペーン参加者リストを基に、各サポーターのその後の行動データを同じシートや関連するシートに紐付ける作業が必要になります。サポーターを識別できるID(会員番号など)があると、この紐付け作業がスムーズに行えます。
具体的な分析ステップ:手元にあるデータで「変化」を追う
準備ができたら、具体的な分析に進みましょう。ここでは、Excelなど身近なツールで実施可能な基本的なステップをご紹介します。
ステップ1:キャンペーン参加者の特定とグループ分け
キャンペーン参加者リストを用意します。キャンペーンへの関わり方によってその後の行動が異なる可能性もありますので、可能であれば以下のように参加者をグループ分けしておくと、より詳細な分析ができます。
- 例:オフラインイベント参加者 / オンラインイベント参加者
- 例:特定のセッションに参加した人 / しなかった人
- 例:キャンペーンに寄付という形で参加した人 / 寄付以外の形で参加した人
ステップ2:追跡期間と指標の設定
準備段階で定義した追跡期間と、追跡したい行動(指標)を改めて確認します。 例えば、「キャンペーン終了後3ヶ月間」を追跡期間とし、「期間内のWebサイトの寄付ページ閲覧」「別のイベントへの参加申し込み」「団体のSNS投稿への特定のリアクション(例:シェア)」などを指標とします。
ステップ3:行動データの収集と紐付け
設定した追跡期間における、各キャンペーン参加者の行動データを収集します。そして、ステップ1のキャンペーン参加者リストに、それぞれのサポーターが定義した行動を取ったかどうかを示す情報を紐付けます。
Excelであれば、キャンペーン参加者リストの各行に、追跡指標ごとの列を追加し、「はい/いいえ」「回数」「日付」などを入力していくイメージです。例えば、「キャンペーン後3ヶ月以内の別イベント参加」という列を作り、参加していれば「はい」と入力します。
ステップ4:行動変化の分析
データが整理できたら、定義した「変化」がどのくらい発生しているかを集計・分析します。
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集計: キャンペーン参加者全体の中で、定義した「変化」を示したサポーターの人数や割合を集計します。ステップ1でグループ分けをした場合は、グループごとの集計も行います。 Excelの
COUNTIF
関数を使えば、「〇〇という条件を満たすサポーターが何人いるか」を簡単に集計できます。また、ピボットテーブルを使えば、参加グループ別の行動変化の集計などを効率的に行うことができます。 -
比較(オプション): 可能であれば、キャンペーンに参加しなかったが属性が似ているサポーター群や、過去の別のキャンペーン参加者のデータと比較してみましょう。これにより、今回のキャンペーンがどれだけ行動変化を促す効果があったのかを相対的に評価できます。
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変化を示したサポーター群の特定と特徴分析: 定義したポジティブな行動変化を示したサポーターを特定し、彼らがキャンペーンにどのように関わっていたか、あるいは他のどのような属性や過去の行動履歴を持っているかといった共通点を探します。この分析は、今後どのようなキャンペーンが効果的か、あるいはどんなサポーターが関係性を深めやすいかのヒントを与えてくれます。
分析結果の解釈と「隠れた変化」の見抜き方
データで行動の変化が集計できたら、そこからサポーターの「隠れた変化」を読み解きます。単に数字を見るだけでなく、なぜその行動を取ったのか、その背景にあるサポーターの気持ちや関心の高まりを推測することが重要です。
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「変化あり」の場合: 特定の行動変化(例:別の活動への参加、寄付額の増加)が見られたサポーターは、キャンペーンを通じて団体への関心や共感が高まった可能性があります。これは、キャンペーンがそのサポーターにとってエンゲージメントを深める有効なきっかけになったことを示唆します。どのようなキャンペーンの要素(テーマ、内容、登壇者、参加者同士の交流など)が特に響いたのかを考えてみましょう。
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「変化なし」の場合: キャンペーンに参加したものの、その後目立った行動変化が見られないサポーターもいるでしょう。これは必ずしもネガティブなサインではありません。キャンペーンは一つのきっかけに過ぎず、サポーターにはそれぞれのペースや関与の仕方があります。ただし、もし多くの参加者に変化が見られない場合は、キャンペーンの内容が期待と異なっていた、その後のフォローアップが十分でなかった、といった改善点がある可能性も考えられます。
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行動パターンから推測する: 例えば、「Webサイトの特定の活動報告ページを繰り返し見ている」「団体のSNS投稿に頻繁に『いいね』やコメントをしている」といった行動は、直接的な「参加」や「寄付」に繋がっていなくても、団体への関心が高まっている「隠れた変化」のサインかもしれません。設定した指標以外の行動データも合わせて見ることで、サポーターの全体的な関心の度合いを推測できます。
分析結果に基づいた具体的なアクション
分析で得られたインサイトは、その後のサポーターとの関係性強化に活かすための重要な情報源です。
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変化を示したサポーターへの個別フォロー: エンゲージメントが高まっている可能性のあるサポーターに対して、個別のフォローアップを行います。
- キャンペーンテーマに関連する次の活動情報を優先的に案内する。
- キャンペーン参加のお礼とともに、興味を持ちそうな他のコンテンツ(ブログ記事、動画など)を紹介する。
- 特別な機会(例:サポーター限定の報告会)に招待する。
- 感謝のメッセージとともに、なぜそのサポーターの行動が団体にとって嬉しいのかを伝える。
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変化が見られなかったサポーターへのアプローチ見直し: キャンペーン参加後、目立った変化が見られないサポーター層に対しては、アプローチ方法を再考します。
- キャンペーンテーマ以外の団体の活動についても情報提供してみる。
- より気軽にできる関わり方(例:オンラインでの情報共有、アンケート回答など)を提案する。
- 一方的な情報提供だけでなく、双方向のコミュニケーションを促す機会を作る。
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キャンペーン企画・実施方法の改善: 分析結果は、今後のキャンペーンをより効果的にするための貴重なフィードバックとなります。
- どのようなキャンペーンが、その後のサポーターのエンゲージメント深化に繋がりやすい傾向があるか。
- キャンペーンへの関わり方(例:オンラインかオフラインか)によって、その後の行動に違いがあるか。
- キャンペーン参加後のフォローアップが、行動変化にどの程度影響しているか。 これらの点を分析結果から考察し、次回のキャンペーン企画や実施体制に反映させます。
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組織内での情報共有: 分析で得られた「サポーターの隠れた変化」に関するインサイトを、ファンドレイジング担当者だけでなく、事業担当者や広報担当者など、他のチームとも共有します。サポーター理解を深めることで、組織全体としてより効果的な関係性構築に取り組むことができます。
まとめ
キャンペーンは、多くの場合、サポーターとの関係性を深めるための「中間地点」になり得るものです。その成果を単発の数字だけでなく、参加したサポーターのその後の行動変化という視点でデータ分析することで、彼らのエンゲージメントがどのように育まれているのか、その「隠れた変化」を見抜くことができます。
本記事でご紹介した分析ステップは、特別なツールがなくても、手元にあるデータとExcelなどの表計算ソフトで実践可能です。まずは一つのキャンペーンを対象に、どのような行動変化を追うか定義し、データを整理して集計してみることから始めてみてください。
分析結果から得られるインサイトは、サポーター一人ひとりに寄り添ったコミュニケーションを可能にし、団体とサポーターの関係性をより強固なものへと育てていくための、かけがえのない羅針盤となるはずです。ぜひ、データを通じてサポーターの「声なき変化」に耳を傾け、コミュニティ活性化に繋げていきましょう。