一人のサポーターの複数のデータを読み解く:関係性深化のための多角的行動分析
非営利団体にとって、サポーターの皆様は活動を支えてくださる大切な存在です。一人ひとりのサポーターの方との関係性を深く構築していくことは、団体の持続的な成長に欠かせません。
多くの団体では、サポーターの皆様に関する様々なデータをお持ちのことと思います。寄付の履歴、イベントへの参加状況、メールマガジンの開封率、Webサイトの閲覧履歴、ボランティア活動の記録、アンケートの回答内容など、多岐にわたる情報があるかもしれません。
しかし、「これらのデータは手元にあるけれど、具体的に一人のサポーターについて、どう見ればその方のことをもっと深く理解できるのだろう?」、「それぞれのデータは個別に見ているけれど、まとめて見ると何か新しい発見があるのだろうか?」と悩むこともあるのではないでしょうか。
今回は、一人のサポーターに関する複数のデータを組み合わせて分析することで、その方の「今」の関心や、私たちとの関係性の変化を読み解き、より深い関係性構築につなげるための「多角的行動分析」についてお伝えします。
なぜ、一人のサポーターの「多角的行動分析」が必要なのでしょうか?
サポーターの皆様の応援の形は様々です。ある方は定期的に寄付をしてくださり、別の方はイベントにはよく参加されるけれど寄付は時々、またある方はボランティア活動を精力的に行いつつ、団体のSNSも頻繁にチェックしている、といったように、多様な関わり方をしてくださっています。
一つのデータだけ(例えば寄付履歴だけ)を見ていても、その方の応援の全体像や、私たちの活動に対する関心の広がり、あるいは変化を捉えることは難しい場合があります。
例えば、以前はイベントに頻繁に参加されていた方が、最近は参加されなくなったとします。このデータだけを見ると、「関心が薄れてしまったのだろうか」と心配になるかもしれません。しかし、同時にWebサイトの特定のプロジェクトページをよく見ている、あるいは関連するメールマガジンを以前より熱心に読んでいる、といった別のデータがあるとすれば、関心がなくなったのではなく、「イベントに参加する時間はなくなったけれど、特定のテーマに関心が高まっている」という別の可能性が見えてきます。
このように、一人のサポーターの複数の行動履歴を組み合わせることで、点と点だった情報が繋がり、その方の現在の状況や関心をより立体的に理解できるようになります。これが、個別最適なコミュニケーションや、関係性をさらに深めるためのヒントにつながるのです。
多角的行動分析のための「データの準備」
まず、手元にあるサポーターに関する様々なデータを洗い出してみましょう。
- 寄付データ: 寄付の金額、頻度、時期、対象プロジェクトなど
- イベント参加データ: 参加したイベントの種類、日時、頻度など
- メール・DMデータ: 開封率、クリック率、どの内容に反応したかなど
- Webサイトデータ: よく閲覧するページ、滞在時間、特定のコンテンツへのアクセスなど(アクセス解析ツールなど)
- アンケートデータ: 回答内容、特に自由記述や特定の設問への反応など
- ボランティア活動データ: 参加頻度、活動内容、期間など
- その他: 問い合わせ履歴、SNSでの反応(可能な範囲で)、オフラインでの会話記録など
次に、これらのデータを「一人のサポーター」に紐づけて整理することが重要です。多くの団体では、サポーターリストや会員管理システム、あるいはExcelなどでデータを管理されていると思います。これらのデータに共通の「サポーターを識別するための項目」(例えばサポーターIDや会員番号など)があれば、それを使ってデータを統合することができます。もし共通の識別項目がない場合は、氏名や住所、メールアドレスなどを組み合わせて、同一人物のデータであることを確認しながら整理します。
Excelを使用している場合であれば、各データのシートに共通の識別子となる列を追加し、VLOOKUP関数などを使って一つのシートにまとめていく、といった方法が考えられます。この段階で、それぞれの行動が「いつ」起こったのか、という時系列の情報も重要になりますので、日付データも必ず含めるように整理します。
具体的な分析ステップ:一人のサポーターの「物語」を読み解く
データがサポーターごとに整理できたら、いよいよ分析です。特定のサポーターを選び、その方の行動履歴を時系列で追ってみましょう。
ステップ1:基本的な行動履歴を一覧で確認する
まずは、整理したデータをサポーターごとに並べ、どのような行動を、いつ、どれくらいの頻度で行っているかをざっと見てみます。寄付、イベント参加、メール反応などがどのように推移しているかを確認します。
ステップ2:複数の行動履歴を組み合わせてパターンや変化を探す
次に、異なる種類の行動データを組み合わせて見てみましょう。以下のような視点が考えられます。
- 行動の変化と他の行動の関係:
- 特定の行動(例: 寄付額の増加、イベント参加頻度の低下)が起こった時期に、別の行動(例: 特定テーマのWebページ閲覧、関連メールの開封)に変化が見られないか?
- 団体の発信する情報(例: 特定プロジェクトの開始、キャンペーン実施)に対して、どのような行動(例: Webサイト訪問、寄付、問い合わせ)が見られたか?
- 特定のイベントやコミュニケーションへの反応:
- 特定のイベントに参加した後、関連するメールやWebサイトへのアクセスが増えているか?
- 特定のテーマのメールマガジンを開封・クリックした後、関連する寄付や問い合わせが見られたか?
- 関心の広がりや深まり:
- 特定のプロジェクトへの寄付やイベント参加の後、関連性の高い別のプロジェクトの情報にも関心を示しているか(例: Webサイト閲覧、別のイベント参加など)?
- アンケートで示された関心事項と、その後の行動(メール反応、Webサイト閲覧など)に関連性があるか?
例えば、特定のサポーターの方のデータを見て、「〇年〇月に特定のプロジェクトへの寄付をしてくださった後、そのプロジェクトに関するブログ記事をよく読んでいるようだ。さらに、先日送った活動報告メールの中でも、特にそのプロジェクトのセクションのリンクをクリックしている回数が多い」といったパターンが見つかるかもしれません。
ステップ3:見つかったパターンから関心や気持ちを推測する
見つかったパターンや変化は、そのサポーターの方が今、何に関心を持っているのか、私たちの活動に対してどのような気持ちでいるのかを推測するための重要なヒントです。
上記の例であれば、「このサポーターの方は、特定のプロジェクトに対し、金銭的な支援だけでなく、情報収集にも熱心に取り組んでくださっている。活動の進捗を知りたいという気持ちが強いのかもしれない」といった推測ができます。
イベント参加が減ったが特定のWebページ閲覧が増えたサポーターであれば、「リアルな場には来づらくなったが、そのテーマへの関心自体は維持、あるいは高まっている」と推測できます。
分析結果に基づく具体的なアクション例
多角的行動分析で得られた推測に基づき、そのサポーターの方との関係性をさらに深めるための具体的なアクションを検討します。
- 個別最適なコミュニケーション:
- 推測した関心に合わせた情報提供を行う(例: 特定プロジェクトのより詳細な情報、関連する新しい取り組みの紹介など)。
- 「いつも〇〇の情報を熱心にご覧いただきありがとうございます」といった、行動に基づいた感謝や声かけを行う(具体的な行動に触れることで、個別に見てくれているという安心感や喜びにつながります)。
- 関心を持ちそうなイベントやボランティア機会がある場合に、個別にご案内する。
- 関係性の変化への対応:
- 特定の行動(イベント参加が減ったなど)に変化が見られる場合でも、他の行動から関心が続いていると推測できるなら、その関心に合わせた別の形での関わり方(オンラインイベントへの招待、情報提供の強化など)を提案する。
- もし複数の行動でエンゲージメントの低下が見られる兆候があれば、丁寧な状況確認や、関わりやすい方法の提案などを検討する(離脱予防にもつながります)。
- 特別な関わり方の提案:
- 特定分野への高い関心と貢献意欲がデータから読み取れるサポーターの方には、その分野に関連するボランティアリーダーや、活動のアンバサダー、専門的なスキルを活かせる機会などを個別打診することも考えられます。
これらのアクションは、あくまでデータからの推測に基づいたものです。一方的に決めつけるのではなく、サポーターの方に寄り添い、関係性を育むための「きっかけ」として活用することが重要です。
分析を続ける上での注意点
- データは「示唆」であり「全て」ではない: データはあくまでサポーターの方の行動の一部を捉えたものです。データから推測される関心や気持ちが、必ずしもその方の全てではありません。実際のコミュニケーションを通じて、データからは見えない部分を理解しようとする姿勢が大切です。
- 完璧なデータを目指さない: 最初から全てのサポーターの全てのデータを完璧に収集・統合しようとすると負担が大きくなります。まずはデータが比較的揃っている一部のサポーターや、特定の属性のサポーターから始めてみたり、特定の期間に絞って分析してみたりするなど、無理のない範囲で始めることが継続の鍵です。
- プライバシーへの配慮: サポーターのデータを扱う際は、プライバシー保護に最大限配慮し、利用目的を明確にした上で取り扱うことが重要です。
まとめ
一人のサポーターの方の複数の行動データを組み合わせ、多角的に分析することは、その方の関心や私たちとの関係性の変化を深く理解するための有効な手段です。これは、データはあるけれどどう活用すれば良いか分からない、というお悩みを抱える実務担当者の皆様にとって、個別最適な関係性構築に向けた実践的な一歩となり得ます。
寄付履歴、イベント参加、メール反応など、お手元にある様々なデータをサポーターごとに整理し、行動の「点」を「線」で繋いでみてください。そこから見えてくる「物語」は、きっと皆様のサポーター理解を深め、より豊かな関係性を育むためのヒントを与えてくれるはずです。
今日から、一人の大切なサポーターの方のデータを少し深く掘り下げてみることから始めてみてはいかがでしょうか。